20111212  吉村先生が書かれた文章は数少ない。 その中の「新宮殿の設計」を本欄に、「建築と設計」を次に掲載します。


 

              

                  新宮殿の設計について

                                                                   吉

 

新宮殿の敷地は、けっきょく戦災で失われた、明治宮殿の跡に決まった。明治以来、われわれに親しまれてきた二重橋をそのまま新宮殿の入口にすることはなんとしても望ましいことである。また宮殿を現在の位置よりももっと奥にもって行くという考え方もあるが、将来祝田橋の交通が地下に整備されれば、現在の皇居前広場がビル街から十分の距離を保ち、宮殿へのよいアプローチになると思われる。またこの位置は吹上によって麹町のビル街と隔てられ、皇居のほぼ中心となる。

この敷地は、歴史的な古い石垣と、大きな美しい樹木に囲まれた皇居内でももっとも建築的な条件に恵まれた場所でもある。この敷地はおよそ2万坪で、宮殿の床面積はおよそ7千坪になる。従来の敷地に対する建物の比例として2万坪の敷地は広いとはいえないが、この場合とくに建物を敷地から別個のものとして離しては考えなかった。いいかえれば、建物と庭とを同時にひとつのものとして設計した。建物全体を平屋としたひとつの理由もこのためである。敷地の周囲は数多くの樹木に囲まれ、地形も変化が多いので、建物もこれを生かしてその配置はまったくのシンメトリーからは自由に扱われている。

建物の設計に当たってまず第一に考えたことは、外部からの車の出入りおよび参賀の群集の処理についてである。重要な行事に集まる人びとの膨大な数の自動車の出入りをどうさばくか、またパーキングのスペースをどうするかという点である。まず広い前庭をとり、その地下をパーキングおよび立体交通の場所としてスムーズな車の処理を考えた。またこの前庭は参賀の2万人以上の人びとを迎えることができるばかりでなく、打球、ほろ引きなど昔より宮廷に伝わる古式の馬術を披露する場所ともなる。建物の平面は正殿を中心として、それぞれ独立した建物が、中庭を隔て、廊下によって連絡されている。正殿は宮殿中においてもっとも重要な儀式の行われる場所である。前庭に面して南車寄せがあり、この反対側に東車寄せがある。このふたつが主要な宮殿の出入り口であるが、ほかにもうひとつ多人数の集会用の玄関として、地下に大きな車寄せを設けた。玄関ホールはとくに広びろととった。これは単なる出入口としてばかりでなく、他の多くの用途に使用できるためである。大広間は夜会、映画。音楽その他の目的のために使用される。大小の食堂の中間に厨房が設けられている。小食堂はもっとも使用率の多い食堂であるので、いちばん眺望のよい場所に置かれてある。第3、第4休所はおもに国賓のために使用される。正殿と大広間に接して、それぞれ報道室が設けられている。これは宮殿における行事をさまたげないで、テレビ、ラジオ、写真撮影などの報道が自由に取材できるようになっている。このことは従来の宮殿にはなかったことで、新宮殿のひとつの特色ともいえるであろう。

中庭では、雅楽、園遊会なども行われる。また中庭を囲む室々を同時に使用して数千人の宴を催すことも可能である。

以上のように新宮殿は国家的行事に使われる公の場所として設計されたもので、従来の宮殿とは異なって、住宅の部分を含んでいない。建物の外壁は大部分ガラスである。このために建物の内部と庭とは互いに交流する。間仕切りは明り障子と、襖が多く用いられている。その開閉によって、室内の雰囲気を変化させることができる。

建物の構造は、鉄骨鉄筋コンクリートの柱、梁架構、そして屋外、屋内とも構造の部分をそのまま現わしている。表面は化粧金属板によって仕上げられる。天井はすべて木材仕上げで、屋内の壁は独立して木造の枠によって構造体に取りつけてある。床は、玄関ホールを除いてはすべて木造仕上げである。そのために室内は木材が仕上げの基調となって、全体の調子を柔らかくしている。またおもな大きな壁面には、壁画を考えている。屋根は特殊な方法を用いている。すなわち鉄骨の置屋根構造で、棟から軒先まで1枚の銅板を葺き並べて仕上げる。軒の出は深い。

新宮殿はもっとも近代的な建物としなければならない。それでできるだけ能率的で現代的な設備を用いることを積極的に行った。まず東京の現在の汚れた空気と、騒音を避けるために室内は四方を通じて全部エヤーコンディションすることになっている。暖房は主として床暖房とし、空調は冷暖房併用となっている。照明は各室とも明暗の調節が自由にできるようになっている。とくに庭園の照明を室内と同じくらい重要に設備し、新しい夜の庭園効果を考えている。また庭園は今度の宮殿の設計にあたって非常に重要な部分となっており、今までのスケールの小さな日本庭園の手法から一歩進んで、スケールの大きな現代の庭園を考えなくてはならない。そして建物との関係においてそれぞれ変化に富んだものでなくてはならない。だとえば前庭は石を敷きつめた庭であり、中庭は砂の庭、その他苔の庭、水草の庭、芝生、灌木の庭、それぞれの庭が周囲の広大な樹木と溶け合って大きな空間を与え、おのおのその特徴をもつことになろう。

最後に、新宮殿は品格ある国家の象徴としてばかりでなく、どこまでも現代の技術による新しい設計の近代建築でなければならないと思う。そしてここで行われる行事は、もっとも新しい日本の様式をそなえ、また将来もなおこれを生み出すことであろう。

 

(初出:「新建築」19641月号)

 

*無断転載禁止

    新建築社許諾済

 

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20111212  吉村先生が書かれた文章は数少ない。 その中の「新宮殿の設計」を本欄に、「建築と設計」を次に掲載します。 への2件のコメント

  1. Lettie より:

    Den där bilen har fått för stor last och läckt! Sv: Helgen har inneburit massa saker, så det har inte blivit av att blogga ens. Lite trist? att börja jobba igen, elm/G?Kralerilla

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